堂場瞬一の『ラストライン』シリーズで描かれる立川
今回は書籍で感じるローカルネタについて書きます。
先日のこちらの記事で紹介した堂場 瞬一 著の『蛮政の秋』で出てきた国分寺を紹介しましたが、今回も同じ作家による『ラストライン』シリーズについて書きます。
ラストラインは定年間近の刑事、岩倉 剛 (ごう)が主人公。50歳で捜査一課から所轄の南大田署に異動し、若手の女性刑事とコンビを組んで抜群の記憶力とベテラン刑事ならでは知見で事件を解決していくシリーズ。ラストラインとは「事件の最終防衛線」という意味ですが、私としては定年近い刑事の最後のフロントライン、という意味も含まれているのでは、と感じています。
堂場さんらしく、蒲田などの街の描写が細かく、食レポのようなグルメの感想も読みどころ。シリーズの3作までは南大田署でしたが、4作目から立川中央暑に異動。第7巻で捜査一課へと戻るまでの第4巻『骨を追え』、第5巻『悪の包囲』、第6巻『罪の年輪』では立川がメイン舞台です。
【文藝春秋Books】ラストライン 堂場瞬一
この立川中央暑編の3冊には、堂場氏らしく細かい描写で立川エリアが書かれています。

立川はどう描写されている?
主人公の岩倉 剛は立川を気に入っています。立川中央暑になって最初の4作目の冒頭はこのように始まります。
岩倉剛は、立川中央暑に赴任してすぐに、立川という街を好きになった。
堂場瞬一「ラストライン4 骨を追え」
その理由について、このように書いています。
「この街に住むのは初めてだったが、前任地の南大田署がある蒲田近辺と同じぐらい―いや、それ以上に賑やかで暮らしやすそうだ。立川駅には中央本線、青梅線、南武線とJRが三路線乗り入れ、さらに多摩地区の縦のラインとしてモノレールも通っている。まさに交通の要所で、どこへ出るにも便利だ。」
JRが3路線乗り入れているとか、細かく説明を入れてくれるのも、新聞記者出身である堂場さんの特徴ですね。それではラストラインでは立川はどう描写されているか、見ていきたいと思います。
駅周辺は都市、少し離れるとのんびり
「立川駅周辺は、都市部のターミナルにも負けない大きな街だが、少し車で走るとあっという間に多摩地区らしい、のんびりした雰囲気になってくる。高い建物はなくなり、道路は直線基調で空は開けてくる。」
(第4巻、第一章)
立川の駅周辺は新宿駅に匹敵する大きさと私も思いますが、5分ほど歩くともう建物も低くなってきローカル感が出てきますもんね。

さらに、こんな文章も。
「昭和記念公園はだだっ広く、この季節は芝生も目に痛いほど綺麗な緑なのだが、夕方なので歩いている人はほとんどいない。大きな芝生の広場を迂回し、公園の案内所の脇を抜けて行くと、正面に立川のビル街が姿を現す。この街はまだ開発途上で、どこかバランスが悪いのだが、自然と都会が一体化しているのは悪くないな、と思う。」
第4巻、第五章
こちらは警視庁犯罪被害者支援課の村野によるコメント。開発途上でバランスが悪いと感じつつも、都会を代表する立川駅と、自然を代表する昭和記念公園が同じ街にあることを魅力に感じています。
そのまま北へ向かって歩き出す。岩倉の感覚では、この辺は警視庁本部のある霞が関付近にも似ている。こちらの方が緑豊か―近くに昭和記念公園があるせいもあるし、街路樹も元気だ。しかし、そっけない官公庁の建物が建ち並ぶ光景は、やはり霞が関に似ている。違いは……夜九時にもなると、人はおろか、車もほとんど走らなくなることだ。霞が関だと、遅い時間になっても車は走っているのだが。中央官庁の官僚は残業も多いので、霞が関は遅くまで眠らない。
第6巻、第四章
多摩都市モノレール沿線についてもこんな記述が。
「(中略)そもそもモノレールの路線周辺にはあまり施設がない。市民体育館など、沿線を代表する大きな施設と言っていいだろう。あとは立飛駅のすぐ側に、巨大なショッピングセンターがあるぐらいだ。」
第6巻、第一章
「(中略)立川駅から署までは歩いていくことにした。最寄り駅は多摩モノレールの高松駅なのだが、JRからモノレールの立川北駅で乗り換えて一駅だけ乗るのも面倒臭い。」
第5巻、第三章
私も映画を観に立飛に行くときとか、免許証の更新で高松に行くときはモノレールを使わずに立川駅から歩いています。
都心からは遠い
一方で都心からのアクセスについては、現実感ある記述が。
「村野は自宅から直接立川中央暑へ向かった。電車に乗っている時間は一時間にも満たないのだが、住んでいる中目黒からはえらく遠い感じがする。」
第4巻、第一章
私も目黒から国分寺に引っ越してきたのですが、最初の移動時に結構掛かるなぁと思ったものでした。
立川駅周りのクルマ事情
その村野は、立川駅付近をパトカーで走行中に渋滞にハマり、こう苛立っています。
「クソ渋滞が……村野は何度も覆面パトカーのハンドルを掌で叩いた。立川駅周辺の道路はどこも交通量が多く、今日も立川通りでJRの立体交差を潜る時に、渋滞に摑まってしまった。とうとう耐えきれずにサイレンを鳴らす。」
第4巻、第五章
私もイケアやファーレ立川に車で行く際に駅周辺で全然進まなくなった経験があります。
つくばに似ている?
さらに岩倉が後輩の船井と食事をしているときにはこんな会話も。
「立川だと、繁華街はどのあたりなんですか?」
「駅前だな。北口も南口も……ただし、そんなに賑やかじゃない。八王子なんかの方が賑わってるよ」
「クリアな感じでいい街ですけどね」
「そんな表現は初めて聞いた」
しかし納得できないでもない。特に北口、官公庁が多く集まっている辺りは、いかにも人工的に作られた綺麗で味気ない街、という感じがする。以前「つくば市に似ている」と言った後輩がいたが、岩倉はまだつくば市を見たことがない。
第6巻、第四章
立川がつくばと似ているという興味深い意見。私も学生時代に産業技術総合研究所やJAXAがあるつくばに何度も出張していましたが、研究都市のつくばと立川は同じ雰囲気は感じないですね。
なぜピタゴラス?
また、ピタゴラス通りにも触れています。なぜピタゴラスかは、作品では明らかにしていません。
「恵美は指示通り、立川駅の北口、ピタゴラス通りという奇妙な名前の路地にあるコイン式駐車場に覆面パトカーを停めて待っていた。そういう名前の通りがあることは、赴任してきた時に気づいていたが、まだ由来は調べていない。誰かに聞けばすぐに分かるとは思うが、謎のまま残しておいた方がいいこともある。興味の先送りだ。」
第4巻、第四章
食べ物事情は
さらにラストラインシリーズらしく、食べ物事情も細かく書いています。
「駅の北口から続く立川通りは、市内のメインストリートの一つだ。近くに立川競輪場もあり、開催日は非常に賑わう界隈である。そのせいか、飲食店―特に呑み屋が多く、一人で食事をするにも不便はない。」
第4巻、第二章
立川中央暑に異動してから既に一年以上、今や立川は岩倉のホームグラウンドだ。吉祥寺以西の中央線沿線では、八王子と並ぶ賑やかな街であることは間違いない。しかし……。「立川だと、こういう高級な雰囲気のバーは、合わないんじゃないか。居酒屋なんかの方が、幅を利かせている」
第5巻、第一章
洒落た高級店ではなく、入りやす呑み屋が多い印象ですね。
グリーンスプリングスについて
ラストラインシリーズでは、立川の商業施設グリーンスプリングスについての記述が多いです。
「(中略)こういう時はグリーンスプリングスか……ここは商業施設、ホテル、オフィスなどが入った新しい複合施設で、南北に長い造りになっている。東側にはモノレールが走り、建物との間には豊かな街路樹が整備されていて、散策にも適した場所になっている。」
第5巻、第三章
「岩倉はコーヒーを一口飲んだ。JR立川駅に程近い複合施設「グリーンスプリングス」のカフェ。コロナ禍が始まった直後にオープンしたこの施設には、ホテルやホールの他に、オフィスや商業施設も入っていて、立川市の新しいランドマークになっている。」
第6巻、第一章
さらに書き足りなかったのか、同じ章の11ページ後に追加で説明を加えています。
「グリーンスプリングスは、「施設」というより新しい「街」と言うべきかもしれない。実際、建物は九棟もあるのだ。敷地内には公園や階段状の滝などが設置され、立川駅北口というか、昭和記念公園の東側に、まったく新しい街が完成したような趣である。もちろん買い物や食事も楽しめるのだが、岩倉は散歩道として好んでいた。人工的ではあるが、平坦で歩きやすいし、人の流れを見ているだけでも楽しい。特に若い人が多く集まるので、賑やかで華やいだ雰囲気でこちらまで気分が明るくなるのだが。ただし、娘の千夏はさほど好きではないようだが。今大学三年生の千夏は、一度だけここへ遊びにきて、微妙な表情を見せた。「何だか田舎のショッピングセンターみたい」と感想を言って、岩倉をがっかりさせたのだった。」
第6巻、第一章
府中、中河原、国立はどう描写されている?
立川だけではなく周辺の街も出てきます。
府中についてはけやきが美しいことを繰り返し書いています。
「府中駅の西側には、けやきが美しく枝を広げるけやき並木通りが南北に走り、その南端が市の象徴ともいえる大國魂神社になっている。三川家は、そこから少し東にある一戸建てだった。けやき並木通りは美しく堂々としているが、一本脇道に入ると道路は狭く、入り組んでいる。」
第4巻、第二章

中河原駅は実感できる描写です。
「中河原駅のホームは高い位置にあり、やけに強く風が吹き抜ける。今日は四月にしては寒く、まるで冬に逆戻りしたような陽気だった。コートを着て来てもよかったかな、と後悔しながら、通過電車が巻き起こす強烈な風に耐える。この後、分倍河原でJR南武線に乗り換え、立川まで行くことになっている。」
第4巻、第四章
国立についてはまるで新聞記事のような正確な描写が書かれています。
「国立市は、中央線のほぼ南側に広がっている。JRの駅は元々、都内で二番目に古い木造建築駅舎で、赤い三角屋根の美しいフォルムが街のシンボルになっていたが、中央線の高架化工事で一度解体され、その後債権されてかつての建物が蘇った。(中略)一方新しい駅舎はあまり特色がなく、地方の新幹線の駅のような雰囲気だった。
駅の南口からは、大学通りが真っ直ぐ南へ走っている。ここの桜並木は、大通りに屋根のように枝がかかる見事なもので、岩倉は日本一の街路樹だと思っていた。大学通りを中心に、富士見通りと旭通りがそれぞれ対象的に南西、南東に向かって伸びている。他の街路も基本的に整然と整備され、歩いていていても分かりやすい。」
第5巻、第一章

ラストラインシリーズで描かれる魅力的な立川エリア。作品を読んでぜひ実際に足を運んでいただれければと思います!
Last Updated on 2月 23, 2026






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